曖昧言葉

曖昧言葉 あいまいことば 〖遊戯詞系〗
言葉の膠着性が弱まって意味がふやけてしまい、語義のとらえどころのない語句を〈曖昧言葉〉ならびに〈感性語〉あるいは〈的(てき)詞(ことば)〉といっている。文彩(修辞学)でいう「曖昧語法」というテクニックである。世の不条理を皮肉るのに効果がある。
われわれが普段なにげなく使っている言葉の中にも曖昧言葉が少なくない。最近は「若者言葉」にこれが目立ち、たとえばスーパーで「一万円からお預かりします」と変な用法に戸惑ったり、動物園で「彼とかが言っていたトカゲよ」なんて言葉に首をかしげたり。日本語の乱れという程度を通り越し、学校で国語をきちんと教えているのか心配だ。
【例】
思いつくままの曖昧言葉   荻生まとめ死ぬの生きるの 識者 とてもじゃない 文化人 てんやわんや 男衆 成るように成る 食わせもの おかちめんこ 男(おとこ)女(おんな) オッチョコチョイ 入れあげる 小鼻 風体 五十歩百歩 アッケラカン とってつける 月極 屁のような 人間国宝(逆差別語)
なるほど狂歌を一首 
              よみ人しらず
世の中はさやうで御座る御もつとも、何とござるかしかと存ぜず &『塵塚談』
文章博士も「的」字を濫用    坪内逍遥
すなわち予が謂ふ論理的読法は、譬へば支那文人の如きものなり。俗称は美読法、姓は論理的読法、名は感銘的読法、字(あざな)は批評的読法、号は説明的読法、別号は解釈的読法、又の名は活読法、綽名は性情的読法。もし之に尊称を与へんには、人間研究的読法などゝやいふべからん。
*「的」は抽象化の接辞で、これの濫用はつつしむべきである。例文の場合は列挙に伴う畳語効果を意図したものと思える。
《参考》
的字の流行
一日棒活版所を訪ふ、雑談の末、主人曰く頃ろ文学界に於て的字の流行甚だしく、一語の裡、一行の間、二三の的字あらざるなく、其活字も他の活字の一倍を備るも猶ほ足らざるを愁ふ、僕等昔時は弓矢の的か鉄砲の的より外に知らざりし字の、斯く迄に文章界に雄飛せんとは驚く可し、此有様にて推す時は遠からずして弓矢の射の字、鉄砲の玉の字も、又一倍の活字を要するに到らん歟、察するに君も亦的々党の一人ならん、敢て問ふ的字流行以前は、奈何なる文字を以て此的字に代用せし歟、僕数年の間此活版業を営むも、未だ的字のほかに一倍の活字を要せし物あるを知らず、ト成る程小生も常に狂戯的散文に的字を用る事多く、主人が的々党の一人と為せしは或は的中せしも知る可からず、然れ共此の比較的数字の打算的難問に答ふる能はず、自愧的、自嘲的、聾唖的、に辞し去る &『花の友』明治二十二年十一月、『明治奇聞』第五篇