文芸遊戯体系 早口系

早口系 はやくちけい
正確に発音しにくい言葉や類似発音を重ねるなどして、一段と言いにくいように作り、その文句をいかに早く誤りなくしゃべれるか競う遊びを〈早口〉という。早口は同義語の〈早口そそり〉〈操り言葉〉〈早(はや)言(ごと)〉〈長言(ながごと)〉あるいは〈早口文句〉などをも総括した総称で、古語の〈舌捩り〉ともあわせ、必要に応じ使い分けられてきた。しかし近代以降の作品は、たいてい「早口」で代表させている。
早口は、口先がもつれるような〈語呂〉の悪い文句をかなりの速さでよどみなく言い切る、あるいは繰り返すことにねらいが置かれている。そのためだろう、早口を三回一気に言ってのけるとしゃっくりが止まるという言い伝えがあるほどで、こうした俗信的背景もなるほどと思わせるものがある。
早口は中世の〈早物語〉あるいは〈早歌〉に成り立ちの端を発している。往時、乞食僧らが普及させた早物語に連歌師等が目をつけ、言語操作の仕事人の立場から、より精緻で内容の濃い舌捩りを創作した。さらに江戸中期には、浄瑠璃や戯作にも早口が用いられるようになった。たとえば芝全交の黄表紙『鼻(はなの)舌(した)長物語(ながものがたり)』では、いたるところに早口文句が使われ、それが読者に受けたことを証(あか)している。
早口というと、必ずといってよいほど引き合いに出されるのが、二世・市川団十郎の『若緑勢(わかみどりいきおい)曾我(そが)』における外郎(ういろう)売の口上である。これは別掲のようにかなりの長口舌、早口文句の範典になっていて、往時の名優の舌捌きに舌を巻かされる。