アクロスティック英語

アクロスティック英語 ──えいご 〖アクロスティック系〗
アクロスティック自体が英語なのに〈アクロスティック英語〉とは芸がないが、いちおう日本語作品と区別しての用語と理解していただきたい。本書では日本語言語遊戯が建前だが、アクロスティックにかぎり英語もなじみ深いという理由から、特例を設けた。
アクロスティックといえば、英国のルイス・キャロル(Lewis Carrol, 1832~98)に触れないわけにはいかない。彼は数学者であると同時に、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』などを書いた童話作家でもある。そして傑出した言語遊戯の創作者でもあった。彼は本職の数理学者としての才能を発揮し、数々の難問パズル類を創案している。
あるいはまた、当時発明されたばかりのカメラを駆使して、知り合いの少女らを映像に収めた写真家でもあった。それら少女の名前を折り込んだ何篇ものアクロスティック詩もまた、広く知られている。
【例】
マーガレット L・キャロル作Maidens, if a maid you meet
Always free from pout and pet,        
Ready smile and temper sweet,
Greet my little Margaret.
And if loved by all she be
Rightly, not a pampered pet,
Easily you then may see
‘Tis my little Margaret.
                 荻生訳
また会ったなあ 可愛こちゃん
 あいきょう忘れぬ 笑みをみせ
 かれんなオチビ 名は魔雅麗(マーガレ)
 レロッととらえた わがこころ
 ツンとすますな せつないよ
トんでおいでよ マーガレット
*頭に来る音引きはあ行の擬通音で表記する。    
アルファベティック・アクロス           原作者未詳
A Boy Called Dick, Ever Fighting,
Got Hands-cuffed In Jail Kicking
Lustily, Minding Nobody. Oh Pray,
Quit Rebellion! Surely To Use Violence Won’t Xtricate You, Zacharry.
荻生訳
明け暮れ喧嘩(ゴロ)まく若造Dの字(デイツク)、獄舎(ハコ)にブチ込まれ、手錠(カマ)され、蹴とばされても、誰(だ)ンれも同情しやしねえ。だろ?もう突っ張るなってこと。暴力沙汰(ちからづく)はお前さんを救うことにゃならんのだ、チャーリィ坊よ。
E・クイーンの「章題遊び」
アメリカの推理作家エラリー・クイーン(二人の共同執筆名)   が書いた『ギリシャ棺の謎』では、全三十四章にわ      わたる章題がすべてアクロス仕立になっている。これ     これら章題の頭字をつづり合わせると、
   The Greek Coffin Mystery By Ellery Queen
 となり、その凝りように改めて感心させられる。
Tomb     墓場
Hunt     探索
Enigma     なぞ  
Gossip     雑談
Remains 遺骸
Exhumation   発掘
Evidence    証拠     
Killed     殺人?
Chronicle  物語  
Omen     前兆  
Foresight    予見  
Facts     事実  
Inquiries     調査  
Note   書置      
Maze     迷路  Yeast     酵素  
Stigma    汚辱
Testament 遺言
Expose 解明
Reckoning   報い
Yearbook  日記 
Bottom    どん底
Yarns      奇談
Exhibit    展示
Leftover    残滓
Light     光明
Exchange   交換
Requisition  強請
Yield     収穫
Quiz     設問
Upshot    空弾
Elleryana  エラリアナ
Eye-opener 開眼
Nucleus    核心
『ギリシャ棺の謎』井上勇訳、創元推理文庫