文芸遊戯の系統 無同字歌系/アナグラム系

無同字歌系 むどうじかけい
歌俳や詞章などで同じ字音を二回使わずにつづったものを〈無同字歌〉という。これの代表的な作品が〈いろは歌〉で、日本語の字音すべてを包括、二度使いしない究極の作品に仕上がっている。
無同字歌の発祥は古く、平安時代に成ったいろは歌よりも以前の時代に、いくつか創作されたものがある。また現代においても、言語遊戯の頂点をなす対象として、新作に挑戦する人があとを絶たない。
これを作る場合は「ゐ」「ゑ」を含めた旧仮名とし、「ん」または「京」入りで四十八字が限度となる。
なお無同字歌は広義には〈アナグラム〉系に属するが、わが国の言語遊戯体系下ではアナグラム系とは一線を画し、独立体系として扱うべきである。さらに無同字歌は、定数の〈音数遊び〉にも属する。

アナグラム anagram
ある語句のつづりを一字ずつに分解し、そのすべてを使って、まったく別の語句に仕立てるものを〈アナグラム〉という。簡単な例で「とけい」を「けいと」に、live(生)をevil(邪)に換えるといった遊びである。
アナグラムは西欧で古くから発達した言語遊戯で、王家によってはアナグラムを得意とする宮廷詩人を擁した例すらあった。その点、西欧の言語は日本語とちがい、限られた数のアルファベットをさまざまな組み合わせでつづるものであるため、アナグラムに適している。
日本語においても、単純なものは名称などのアナグラムから、複雑なものは四十七字のつづり換え〈無同字歌〉まで、例に事欠かない。
《参考》
Anagram 語句の綴り換え。字謎。
(Gr. Ana graphein,もう一度書く)ある単語、語句の文字を置き換えることによってできる単語、あるいは語句。幾つか有名な例をあげてみよう。
  Dame Eleanor Davis(エリナー・デービス令夫人。チャールズ一世時代の女予言者)はNever so mad a ladie(こんな気狂い女は見たことない)と言い換えられた。以下同じ。
  Gustavus(グスターフ一世。デンマークから独立後のノ初代スウェーデン王)=Augustus(ローマ帝国初代の皇帝) (中略)
アナグラムは古くから、真面目なあるいは風刺的、または賞賛の意味を込めた目的で大いに使われ、ビクトリア朝時代に非常にはやった。(後略。原文は横書き) 『ブルーワー英語故事成語大辞典』大修館書店刊