文芸遊戯の体系 謎なぞ系

謎なぞ系 なぞなぞけい
ある事柄を答として用意しておき、それを隠蔽した問を相手に発して、推察により答えさせる遊びを〈謎なぞ〉と総称している。言葉遊びの中では歴史が最も古く、「何ぞ何ぞ」と問うたのが語源である。この謎なぞ遊びをすることを「謎をかける」とか「謎をたてる」といっている。
謎なぞというと、世界的に古代ギリシヤのスフィンクスの故事がよく知られているが、わが国では奈良時代に中国の字謎に倣(なら)ったものが起源とされている。その頃の謎なぞは、言語遊戯というより、むしろ俗信帰(き)依(え)に近い存在であった。
古今和歌集』には〈物(ものの)名歌(なうた)〉が何首も見えるが、これらも謎なぞの延長線上にある。平安中期には、和歌に限らず物語にも謎なぞ遊びが散見でき、民衆の生活にもこの遊戯がしっかりと根を下ろしていたことがうかがえる。
中世、連歌の一技法である「賦物(ふしもの)」が形作られ、そのさいいくつか謎なぞも併行し誕生している。 
謎なぞ作者も中世までは貴族・僧侶や連歌師といった特権階級に属する人たちであったが、近世に入ると、謎解き坊主や咄家を中心に町人文化の擁するところとなった。
こんな江戸笑話がある。
「謎を四割八分(勝つと五倍になる賭け)で胴をとろふが、張るか」「こりや珍しい。題を出しちやれ」「ぬらくらして長いものは」「鰻であらふ」と、一両張る。「南無三、しめられた。それでは又ふせるぞ。ぬらくらして長いものは」小首をかたげ、今度は五両出して、「蛇であろうが」「オット、鰻のつらでござい」
これは明和九年刊『楽索頭』のうち「謎」と題したもの。先にわざと負けで五両損しておいて、結果は二十五両、実質二十両を巻き上げてしまう職業賭博師の手口を示し、落語のネタにもなっている。
謎解きも他の言語遊戯と同様に、曖昧なこじつけが多い。この非論理性が謎なぞをより興味深いものにしている。しかも謎なぞ遊びは人間の知的欲求を満たすだけでなく、答える側においても、意外性や洒落の持ち味を発揮して笑いの質を高める。
ときに、現代語で「謎」と一言で言いきった場合、とたんに語義が広まってしまう。この一語のうちには「謎の女」とか「謎めいた
微笑」といったような、言語遊戯に止まらず、一般語領域にまで意味が拡散する。これでは言語遊戯用語としての使い方が曖昧なものとなり、はなはだ不都合だ。そこで、言語遊戯上の狭義の言葉として用いる場合は、昔から畳語慣用してきた「謎なぞ」を使いたい。「謎なぞ」ならば、謎なぞの二本柱である〈二段なぞ〉〈三段なぞ〉を中心に、せいぜい〈隠語〉〈無理問答〉〈考え物〉程度まで、謎なぞ系の言語遊戯の範囲内に用語を膠着させることができる。なお、文字に関する謎なぞは〈字謎〉として「文字遊び系」で扱っている。