文芸遊戯の系統 アクロスティック系

アクロスティック acrostic 
詩文・詞章で各行・各句の頭尾・あるいは特定箇所の定置文字をつづるとまとまった意味の文句になるものを〈アクロスティック〉と総称している。これは音節系遊戯の中核で、種類によってはパズル色が濃い。
そもそも〈アクロスティック〉は英語である。この言葉が明治時代に移入される以前から、わが国ではこれに相当する用語〈折句〉が存在しているため、本書では別の系統扱いにして区別した。移入当時は「単式文字綴り」という苦しい和訳を当てている。言葉遊び指導家の向井吉人は、「嗚呼苦労素敵句」なる、言い得て素敵な当て字を創作している。
世界の言語遊戯のなかでも〈アクロスティック〉の起源は古いほうである。たとえば『旧約聖書詩篇には、十二か所に〈アクロスティック〉が使われている。さらに詩篇百十九「主の律法を讃える詩」には、二十二節の八行詩各節頭にヘブライ語のアルファベット二二文字がアクロスされている。ヘブライ語を解する人は、この絶妙な構成に感嘆せざるをえないという。いずれにしても、アルファベットを組み合わせてつづるヨーロッパ系言語は〈アクロスティック〉作りにぴったり。これまで数多くの〈アクロスティック〉作品が創作されてきたが、なかでも遊戯詩の名手といわれるルイス・キャロル(一八三二〜九八)の一連の〈アクロスティック〉作品は不朽の名作揃いと評価され、現在なお愛読者が多い。
 日本でも延喜十四(九一四)年頃に成った勅撰『古今和歌集』の中に、何種かの折句〈物名歌〉が収載されていることから、古くから愛好された技巧であるといえる。